モデルとして10年以上キャリアを重ねるなかで、本来の自分と、モデルとしての自分のイメージにギャップを感じてきたというカイノさん。コロナ禍をきっかけに改めてモデルという仕事、そして自分自身を見つめ直したと言います。
「こんなに大変なときに、何も社会貢献できず、“私は、なぜモデルをやっているんだろう”と、改めて自分に問い直していました。そんな中、静岡の実家ともよく連絡を取り合うようになり、父親からコロナ禍の影響がお茶業界にも及んでいると聞いて。私の実家は、祖父の代から日本茶の加工や袋詰めをする工場を営んでいて、幼い頃からお茶はとても身近な存在でした。よく知るお茶屋さんやお茶農家さんが、悲しい思いをしていると知って、すぐさま何か力になりたい! と思いました」
モデルの自分にもできることがあるかもしれないーー。漠然と浮かんだのは、そんな想いだったと言います。
「モデルという仕事柄、周りにはデザイナーやカメラマンなど、ものづくりのプロもいますし、SNSでの発信が得意な若い友人やお茶好きなモデル仲間も多い。そんな自分の環境に改めて気づいて、みんなを巻き込むことができたら、静岡のお茶を広くPRすることができるかもしれないと、どんどん想像が膨らんでいったんです」
こうして立ち上げたのが、お茶のブランド「SA THÉ SA THÉ(サテサテ)」です。子どもの頃から慣れ親しんできた日本茶のために、今自分ができることを、という一心でスタートしましたが、当初はモデルとお茶屋という、ギャップを理解してもらえるかどうか、不安もあったと振り返ります。
「『モデルがやっているお茶ってどうなの?』という疑問を持たれても当然だと思ったんです。でも、私には、お茶の産地である静岡出身だというルーツがあったし、想いもあった。だから、まずは“なぜ私が”ということを、丁寧に説明することが大事だと考えました。でも、そのためには“自分の言葉”が必要だったんです。それが最初の難関でした」
モデルはイメージに染まるための存在。そう考えるカイノさんは、これまで自分の言葉や想いをあえて表に出さないようにしてきました。しかし、ブランドを立ち上げるとなると、自分の言葉で表現するということが何より重要に。一体どのように難関を乗り越えたのでしょうか。
「今まで私はモデルとして、ビジュアルを通じての表現をしてきましたが、ブランドを立ち上げるにあたって、やっぱりそれだけでは伝わらないと思いました。 “なぜこのブランドを作るのか”“どんなものを作りたいのか”“誰に届けたいのか”“そのためにはどんな場所で販売すればいいのか” 自分の言葉があってこそ、本当の想いが届くし、共感性も生まれます。そのためには自分と向き合うことが必要だと思いました」
そこでカイノさんが取り組んだのが、自分の頭の中にあることを書き出してみること。
「じっくり時間をかけることもあれば、勢いで書いてしまうほうがうまくまとまることもあります。ブランドを続けて4年になりますが、自分の言葉で伝える、ということに関してはいまだにトライ&エラーの気持ちで向き合っています」
これまで“影”だった本来の自分と向き合う時間ができたことで、周囲の反応も変わってきたとカイノさんは言います。
「これまで“光”の自分は、クールなイメージもあって、どこか遠い存在だと思われていた部分とあると思うんです。でも、『SA THÉ SA THÉ』のイベント出店などにファンの方がいらしてくださると、私のあまりの “普通さ”に驚かれるんですよ(笑)。お茶屋の私は、本来の自分だと感じます。モデルは私にとってすごく楽しい仕事、お茶は自分と向き合う時間。“光”も“影”もどっちもあって、私なんだろうなと思います」
ブランドは4年目を迎え、毎年の新茶を心待ちにしてくれるファンも増えているという今、カイノさんは「改めて学びたいことがたくさんある」と語ります。
「当初、『「SA THÉ SA THÉ』は、1商品を作って終わりの予定だったんです。それが思いのほか反響をいただき、続けられることになって。とてもありがたいと思うと同時に、勢いで始めてしまった分もっとじっくりと基礎を固めたいなという思いがあるんです。地元のお茶屋さんや農家さんとももっとお話ししたり、お茶の資格を取るために勉強したり。それから、自分と向き合うことも。私自身が内側を磨くことで、ブランドにもより奥行きを持たせられると思っています」
モデルとお茶屋。2つの肩書きを両立するようになった今も「一人戦っていることは多い」と語ります。
「私は昔から、周りや空気に合わせて我慢するよりも、自分の気持ちに素直にいることのほうが心地いいと感じるタイプでした。もちろん周りの目を気にしてしまうこともあるし、いろいろ言われたこともあったけれど、『自分の気持ちに素直にいる』ことが、私にとっての人生のテーマなんだと感じます。だからこそ、一人で悩んだり葛藤したりことがどうしても多くなってしまうけれど…。“クール”と見られているその裏側は、結構熱いかもしれません」
多様な生き方や働き方が広がる今、カイノさんのように新たなことに挑戦したいと考えている人も多いのではないでしょうか? そんな人の背中を、カイノさんは軽やかに押してくれます。
「『やってみたい』と思ったら、まずはかじってみるだけでもいいと思うんです。その場所に行ってみるとか、教室に通ってみるとか、ちょっと動くだけでも必ず見える景色は変わるはず。そして、合わないな、違うな、と思ったらやめたっていいんですよね。私もそういうタイプです」
年齢を重ねると、変化が怖くなってしまうこともありますが、現在30代のカイノさんは、年齢を気にしたことはないのだとか。
「年齢って、例えば星座みたいなものなのかなと思っていて、◯◯座は真面目、◯◯座はのんびり屋というように、その人を示す指標や個性の一つぐらいにしか思っていないんです。それよりも、女性の場合は、結婚や出産など、ライフステージの変化によって、踏み出せない理由が生まれてしまうことはあると思います。ただ、最終的に大切なのは自分の気持ちと向き合うことだと思っていて。変化は怖いし、不安の材料は探せばキリがないけれど、『何が不安か』ということよりも、今後の人生で『何を大切にしていきたいか』、と考えてみると、踏み出す勇気や答えが出てくるような気がします」
モデル。静岡県生まれ。雑誌や広告を中心にモデルとして活躍する傍ら、2020年より日本茶ブランド「SA THÉ SA THÉ」を立ち上げ、お茶の魅力を広めるため活動中。
1991年長崎生まれ、埼玉にて育つ。現在は東京を拠点に、ポートレートを中心とした様々なコマーシャルワーク・作品制作を行う。