出身地・神戸のブライダルサロンからヘアメイクの道へ。現在は、「YOASOBI」や「新しい学校のリーダーズ」をはじめ、多くの著名人のヘアメイクを手掛けるYOUCAさんですが、イラストやコラージュ作品などを手掛けるアーティストでもあります。そんなYOUCAさんの自己表現の原点はどこにあるのでしょうか?
「ブライダルメイクの仕事は好きでしたが、続ける先に自分がワクワクできるものがここにはないかも、とも感じていました。そんななか、ファッション雑誌でこれまで見たこともないような、独創的なヘアメイクを目にして、釘付けになりました。『ヘアメイクって、もっとクリエイティブで自由なものなんだ』と気づかされ、すぐさま上京を決めました」
東京では4年間アシスタントについたというYOUCAさん。厳しい修行時代を支えていたのは、自身の「表現したい」という気持ちだったといいます。
「できない事が多すぎて毎日怒られながらも、それでも必死に頑張っていました。自分の好きな世界を自分の手で表現したい、形にしたい、という思いだけをエネルギーの源にしていましたね」
独立してからは、雑誌や広告、また数々のアーティストのヘアメイクを手がけるように。彼女たちからの絶大な信頼の裏側には、YOUCAさんの大切にする想いがあります。
「一番大切にしているのは、その人の一番の魅力を引き出すこと。よく言っていただけるのは『メイクのおかげで、自信が持てました』という言葉。自分に『かわいい』がプラスされると、やっぱり気分も上がると思うんですよね。ふと鏡を見たときに、勇気が持てたり、幸せになれたり、そんなメイクがしたいと常に思っています」
YOUCAさんが作家として本格的に活動をスタートしたのは2016年のこと。これまで、趣味として続けていたイラストやコラージュ作品の制作に本格的に取り組みはじめ、2018年には初の個展「パラレル」を主催。2022年には、親しいアーティストやクリエイター仲間とともに、ラフォーレ原宿で体験型アートイベント「PEEP展」を開催し、話題になりました。
「自分の『好き』だけを表現する場が欲しいという想いはずっとありました。これまでは自分で作った作品を本にまとめたり、Instagramで作品をアップしたりしてきましたが、それを集結させたのが展示だと思っています」
作品で表現する世界は、自分の「好き」の集合体。YOUCAさんは幼い頃から好き・嫌いの感覚がはっきりしていたと語る。
「どんなときも自分の好き嫌いセンサーが勝手に働くんです。服屋さんに行くと、これ好き、これ嫌い、と、素早く決めていくことができます。美術館でも、興味のある展示は何時間でもじっくり見ていられるのに、あまり惹かれないかもと思ったらすぐ観終わってしまいますね(笑)
直感としか言いようがないのですが、自分の中に、めちゃくちゃ振り切るところがあるんです。アーティストとして作品を作るときは、その振り切るポイントを求めて、手を動かしています」
「今回は自分の『好き』を追求してみたかった」とYOUCAさん。独自の感性で「女郎花色」を解釈し、メイクへと落とし込みました。
「毒気や違和感、クセのようなものに惹かれるんです。今回のテーマ『女郎花』は、その可憐なお花の見た目とは裏腹に、実はにおいが臭いと知って面白いと思ったんですよね。かわいい、柔らかいだけじゃない、何か尖ったものを隠しているようなイメージから、『昆虫』が浮かびました」
「昆虫」をテーマに、肌作りでは非ナチュラル感を意識。また、触覚のようなつけまつ毛をポイントに。
「肌の上に緑色を仕込み、その上から数色の黄色を重ねて女郎花色をつくり出しました。その上にはあえてつるっとした印象になるように青みがかったパールピンクをあわせて、毒っぽさを表現しています。また、触覚のようなまつ毛にしたかったので 綺麗すぎない、いびつな形を意識してこだわりました。部分用つけまつ毛をさらに分解し、鳥の羽の先端を黒い糊でくっつけて作りました。そうすることで、長いひじきのようなちょっと歪なシルエット、がさっとした質感ができます。リップは渋めのブラウンがかったオレンジ。かわいいだけじゃない、ちょっと毒がポイントです」
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不思議な顔の模様と緑色の目元が目を引くメイクは、カラーのポイント使いが特徴です。
「ポイントメイクは、カラーメイク初心者におすすめです。目尻だけ、リップだけ、と、ポイントでプラスオンすることで、いつもとは違う雰囲気が楽しめます。いきなりビビットなカラーを使うのはハードルが高いという人は、ほんのり色づいているな、くらいの色味から徐々に濃くしていくと失敗しません。
また、顔の造作によってカラーをのせる場所を変えるテクニックも。たとえば目の間隔が離れ気味の人は内側に、逆に寄り気味の人は外側にカラーをプラスすれば、視線をコントロールすることができ、コンプレックスもカバーできます」
「ファッションにあわせて色を選ぶのもカラーメイクの楽しみの一つ」だとYOUCAさん。今回もメイクとのマッチングを考え、衣装を選びました。
「メイクの色と服の色をあわせるだけでなく、例えば全身ブラックの装いに、あえてカラーメイクをするのもメイクがより引き立って素敵です。ピアスやネックレスをつけるような感覚で、『ちょっと色をのせてみる』のが、カラーメイクを楽しむポイント。きっといつもと少し違う自分を発見できると思います」
モデルが自然の中から出てきたような、まるで花や植物そのものになったような、イメージを表現したというメイクは、女郎花色が引き立ちながらも、どこかナチュラルな印象を受けます。
「肌は一色で均一に仕上げるのではなく、地層のようにグラデーションをつけています。そもそも人の肌は、一色ではなく、いろんな色が混ざり合っているもの。そんな肌本来の美しさを引き出すように、色を重ねました。
顔全体にメイクするときはどう余白を作るかがとても大事なので、カーブの位置や角度、色(レモンイエローから山吹色までのグラデーション)を部分によって変えたりと、大胆なメイクだからこそモデルさんをどうかわいく見せるかということにもこだわりました。
また、目尻には女郎花色をイメージした緑色をのせ、全体の印象を引き締めています。モデルの岡本さんは、そのままの目がとても魅力的だったので、アイライナーやマスカラは多用せず、ポイントメイクでできるだけシンプルに仕上げました」
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個性が尊重される時代と言われながら、一方では「みんなと同じ」が良しとされる社会の中で、自己表現に難しさを感じる人は少なくないのではないでしょうか? YOUCAさんは、最近気になっていることがあるといいます。
「私は仕事で海外に行くことが多いのですが、日本に帰ってくるたびに、みんなが同じメイク、同じような格好をしていることに驚くんです。特にメイクは、自分が好きかどうかということよりも、いかに流行りの顔になるか、ということを目的にしているように感じてしまいます」
「自分らしさ」をどう見つけ、表現すればいいのか、YOUCAさんはこうアドバイスしてくれます。
「今日のメイクは、決して誰もが『好き』と感じるものではないと思うんです。嫌いだと思う人だっているかもしれません。でも、それを怖がって無難な落とし所に逃げてしまうと、何も目を引かないものになってしまうと思うんです。
自分らしさがわからない、という人には、もっと自分の『好き』を追求してみてほしいと思います。そのためには、自分の心の声を聞くこと。今の私は、どんなことも好きか嫌いかを素直に自分に聞き続けてきた結果だと思っています。どんな些細なことも、どこがどう好きなのかを細かく検証してデータを蓄積していくんです。そのデータが自分らしさの解像度を上げてくれるし、何より自分を信じる力になる。自分の『好き』がわかれば、怖がって誰かに合わせる必要はないし、きっと周りなんてどうでも良くなります」
2011年ヘアメイクアップアーティストとして活動開始。モデルやアーティストなど数多くの著名人のヘアメイクを手がける。2016年、イラストやコラージュアート、アートディレクションを開始。2022年にアートイベント『PEPP展』を開催。
武蔵野美術大学卒業後、ロンドンへの短期留学を経て文化出版局写真部に入社。その後Sayaka Maruyama氏に師事。ファッション、ビューティー関連の撮影をメインに、スチールも精力的にこなしている。
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