何気なくしているメイクが、いつの間にかお決まりになってしまっているという人は多いかもしれません。とはいえ、何から変えればいいのか、新しいメイクに挑戦するのは、なかなか難しい…。そんな人へ、村上さんはこんな提案をしてくれました。
「例えば、メイクをするとき、ファンデーションを塗らないといけない、マスカラをしないといけないと、ルーティンを決めてしまっている人って、案外多いと思うんですよね。でも、素顔にリップだけの日があったっていいし、普段は黒と決めていたマスカラを黄色にしてみてもいい。お洋服やヘアカラーと同じように、もっと自由に楽しんでいいのではないでしょうか。ルーティンから外れたときに、新たな自分の魅力を発見できるような気がします」
さらに、「『引く』ことを覚えておくと、新たなメイクにも挑戦しやすくなる」と、村上さん。
「その人の個性を引き立てるために、何かを引いて“抜け”を作るのは、いつも大切にしていることの一つです」
今回、「溜色(ためいろ)」をテーマに、“抜け”を生かしたアーティスティックなメイクを紹介してくれました。
「溜色を見たとき、最初に連想したのは、漆器です。何層にも漆を重ねて作り上げる色は、独特の深みがあって、光の当たり方や見る角度によって変化する。それがすごく素敵だなと思って」
一つの見え方だけじゃない、多面的な色やイメージの広がりを、リップで表現したという村上さん。
「漆塗りをイメージして、朱色の上に黒色を重ね、深みのある赤茶色へと変化していく様子を作り出しました。また、漆ならではの蜜のようになめらかな艶感を、グロスで演出しています。
目元は、漆がもともと乳白色の樹液だということからインスピレーションを得て、クリーム色のアイシャドウでふんわりと仕上げています。KANONさんは大きな目が魅力の一つでもありますが、今回はあえてそこにポイントを置かずに、唇をポイントにメイクをしました」
CAP:
rms beauty ゴーヌード リップペンシル ミッドナイトヌード
MACマキシマル シルキーマット リップスティック マラケシュ
MACリップスティック マキシマル スリーク サテン リップスティック パラマウント
MAC リップガラス クリア
「私は、もともと誰かをメイクできれいにしてあげたい、というよりも、色やアート、ファッションが好きでした。なので、メイクもその人の一部だと考え、施すことが好きです。何より大切にしているのは、その人の持つ個性を引き出すこと、その人『らしさ』が伝わるメイクです」
現在、雑誌に広告に引っ張りだこの村上さんですが、独立後数年は全く仕事がない時期もあったといいます。そんな日々が変化するきっかけとなったのが、ある雑誌の撮影でした。
「営業に行った先の雑誌編集者に声をかけてもらい、ファッション誌の撮影に参加したのですが、私はそのとき、ほとんど何もメイクをしませんでした。あえて何も足さない方が、モデルの個性が際立つと思ったんです」
その撮影をきっかけに、その雑誌から呼ばれることも増え、忙しくなっていったという村上さん。モデル、俳優からの指名仕事も舞い込むように。「個性を表現するには、足すことだけが全てではない」と、自分の感覚に自信を持てるようになり、以降、メイクの仕事がどんどん楽しくなっていったといいます。
今もなお大切にしているのは、自分の感覚に従うこと。そして、そのためにも「決めつけないこと」がとても重要だと教えてくれました。
「私はいつも、撮影前には想像を巡らせ、リサーチや準備はしても、ガチガチに固めていかないようにしています。その場の雰囲気や感覚を大切にすることで、思いもよらない新たなものとの出会いがあるんです。
引いてみるとか、ルーティンから外れてみる、といったこともそうですが、人に対しても同じ。何事も決めつけないほうが、見えてくることがあると思っています」
「『らしさ』を感じる人は、美しい」という村上さん。「でも、そもそもどんな人も美しいですよ」と、付け加えます。
「自分がコンプレックスだと思っている部分にこそ、『らしさ』があったりすると思うんですよね。そして、それが一番のチャームポイントになったりもする。だからあえてそこに向き合ってみてほしいんです。決めつけないことで、見えてくる自分の新しい魅力がきっとあるはずです」
1985年大阪生まれ。化粧品会社に入社後、アシスタントを経て2010年に独立。現在、雑誌や広告、俳優やアーティストなどのヘアメイクを中心に幅広く活躍中。
名古屋外国語大学在学中に約2年間アシスタントにつきフランス留学を経てその後独立。主にファッション・広告撮影を手がける。