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自分はこういう人間だと決めつけずに
いろんなものに触れたい

自分はこういう人間だと決めつけずにいろんなものに触れたい

どういうことが得意なんだろう? どういうことがしたいんだろう?と、幼少期からずっと自問自答し、内省を続けてきた菅野さん。特に30歳頃までは自分の内側へと深く潜るように自身と向き合い、その軸を育ててきました。しかし、最近は「自分のことを理解するフェーズが一段落した」という感覚があり、外の世界の道へと向かう気持ちが強くなってきたのだといいます。

「去年カッパドキアに行って気球から朝日を見たんですけど、この美しい事象が毎日起こっているということにはっとしたと同時に、私はそういうものを見逃しすぎているなと反省したんです。まだ触れたことのない美しいものが地球上にたくさんあて、それってつまり、まだ気づいていないだけでもっと好きになれるものがいっぱいあるっていうことだと思うんですよね。

そういうものにもっと出会いたいし、もっと探していきたい。内省のフェーズは終えて自分はこういう人間だと決めつけずにいろんなものに触れたいし、ちょっとでも時間が空いたら地球上にあるまだ見たことのないものを見に行って、『私のなかにこんな感覚があるんだ!』っていう新しさに出会いたいです」

自信がないって全然悪いことじゃないと思う

自信がないって全然悪いことじゃないと思う

現在のマインドセットをこう語りつつ、「自分自身を分析して得意も不得意も見つめてきたことが自分を形成してきたと思う」と、幼少期からの内省の歩みを振り返る菅野さん。たとえば、小学生の頃は数字を見ると頭痛がするし、体育は大の苦手。でも、国語と音楽と美術は楽しくできることに気づき、それだけを伸ばそうと決めたんだとか。そこまで割り切って自分の不得意なことやできないこと、歪さを認めることは決して簡単なことではありませんが、菅野さんにとっては、できないことを受け入れて「オルタナティブな選択」をすることが、人生の道を開く鍵だったといいます。

「学校に馴染めなかったりできないことが多くても楽しく生きていくために自己分析して歪さを認めざるを得なかったんだと思います。私はもともとネガティブなので、できなかったらいいや、私なんてもういいやという気持ちが本流。それがベースにあるから、もっといい未来をイメージして行動することが、私にとってはオルタナティブだったんです。意識的にオルタナティブな選択肢を選ぶようにしてきたおかげで、閉じていたものが開いていった感覚があります」

「諦めが悪いんですよね」と続ける菅野さん。本流がネガティブと言いつつも、それを上回るほど負けず嫌いな側面があったといいます。

「コンプレックスだらけなら諦めて雑誌に出るのをやめれば良かったんですけど、とにかく悔しかったんです。その悔しさが恐ろしいほどに自分だけに向いていた。自分の理想に届かなさすぎて、勝手に自分と戦っていたらたまたまたキャラができあがっていった気がします。オタク気質だったことが功を奏して、もっと良くなる方法はないかって研究することも楽しかったんですよね。その結果、自分のことであれば自分で動いて変えられないことってあんまりないかもって思えるようになりました」

コンプレックスがあると、それを嫌だと感じたり直したいと思いがちですが、その歪さがあってもいいと思えたのは、こんなことに気づいたからだといいます。

「自信がないって全然悪いことじゃないと思うんです。どこか足りていない部分や欠けている部分は伸び代であり、色気でもあると思う。何もかもが手に入って自信満々になるより、理想に手を伸ばし続けている時のほうが私は楽しいです」

そんな菅野さんが追い求めてきた理想の一つがファッション。小学生時代はほとんど友達ができず、学校にも居場所がなかった菅野さんですが、音楽や本、そしてファッション雑誌のなかだけでは「自分と同じ惑星の生まれだ!」と思える人たちがいたといいます。2011年に立ち上げた自身のブランドCrayme,も、今では大きな居場所になっています。

「居心地の良くない場所に時間を費やすより、飛び出して自分で探しにいったり、自分で場所を作ったりしたほうがいい。居心地の悪い場所から飛び出しても、もちろんすぐに仲間が見つかるわけじゃないけれど、『これが好き!』ってブレずに言い続けていると、『私も!』っていう人に出会えて、ちょっとずつ居場所ができていきました。Crayme,も、もっと仲間がいるかもしれないと思ってやっている感覚があります。ピュアにものを作って発信することで、居場所のなかったかつての私のような人に『ここだよ!』って伝えられる灯台のような存在であれたらいいなと思います」

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心の向くままに軽やかに、
愛情を注げるほうへ行けたらなんでもおもしろい

心の向くままに軽やかに、愛情を注げるほうへ行けたらなんでもおもしろい

あらためてこれまでを振り返りながら、「自分自身をマインドコントロールしながらちょっとずつ行動や意識、習慣を変えていって10年くらいかけて今の自分に矯正してきた感覚があります」と菅野さんは話します。

「必要以上に考え込んじゃうし、だいぶ重い人間だったけど、今は荷物をできるだけ下ろして、自分の身一つでいる感覚を大切にしています。テキトーにずっと憧れていて高田純二さんの本とか読んでたんですよね(笑)。昔は仕事に対して超神経質で1mmでも何かがズレたら嫌だっていう完璧主義でしたし、頼まれてもいない荷物まで抱え込んで辛くなっていたというか。でも、今身軽でいようと思えるのは、新しいことに飛び込む怖さよりも、違和感を無視して何も変わらずにいることのほうが怖かったからだと思います」

今の彼女を作ったのは、何か劇的な出来事やきっかけではなく、日々の少しずつの変化の積み重ね。それこそが自分のキャラクターを作っていく要になっているといいます。

「自分がわくわくしたり、エモーショナルに取り組めたりすることを見つけて、純度高く没入していく作業を積み重ねることが、自分のオリジナルになっていくと思うんです。私も10代の頃はやりたいことなんてなかったけど、この音楽の狂おしさが好き、この絵画の色使いが好き、この作家の文体が好き、など、“好き”の確信だけは強くあった。それと同時に、これは変、これは美しくない、という感覚にも確信的で、それがたとえ人と違っても気にせずに自分の感覚を信じてきたことが、すべてのベースになっているなと思います」

「自分らしさは決めつけるべきではないと思っていて」と続ける菅野さん。最後にこれからどんな菅野結以になっていきたいかを聞くと、こう答えてくれました。

「いろいろなことが日々変わっていくし感覚もアップデートされていくので、自分をこういう人間だと決めつけないで、どんどんいろんなところに飛び込んで変化していきたいです。だから、常識めいたものとか、世の中の正解っぽいものは極力無視して、自分の正解を作っていきたい。心の向くままに軽やかに、愛情を注げるほうへ行けたらなんでもおもしろいんじゃないかなと思うので、未知を楽しんでいきたいです」

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書籍情報

『オルタナ美容 非常識美人の哲学』
著者:菅野結以
出版社:扶桑社
発売日:2024/12/2
https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594098803