「ずっとBiSHというグループで活動してきたし、私はこの先もタレントでいなければいけないと考えていました。タレントでいるためには大手事務所に所属していないとテレビも出られないと思っていたし、そういう固定観念で自己像を縛りつけていたのかもしれません」
そう語るモモコグミカンパニーさんは、活動10周年を迎えた今年、もっと自由な生き方を求めて大手事務所を独立する決断に至りました。
「私のことをテレビタレントだと思っている人は、事務所を辞めて大丈夫なの?って思うかもしれません。でも、逆に世界が広がったと思っているし、この10年でいろんなものに触れてきたからこそ、一旦、自分を入れていた枠組みを外していろんな生き方を模索しようと思ったんです」
当時は周囲から「大手事務所をやめたら何もないじゃん」という言葉をかけられたといいます。
「『何もない』という言葉を聞いて、それは違うって強く思ったんです。独立してもたくさんの世界を抱えて生きているのに、他人からは何もないように見えるんだってすごくびっくりしてしまって。人のことを何かに当てはめて『持っている』『持っていない』と決めつけるのはあまりにも窮屈です。でも、私ももしかしたら自分に対して『何もない』と思っている側面があるんじゃないかって気づかされて。私は自分自身に対しても多面的でありたい。それが生きやすさに繋がると思っています」
驚きと気づきを得た出来事だったとモモコグミカンパニーさんは振り返ります。それを突っぱねるわけではなく、省みることができたのにはこんな理由がありました。
「自分が生きづらいのってそういう部分かなって思ったんです。私は人が普通にやっていることができなかったりして。たとえば会社員として働いていないし、結婚だってしていない。普通のルートから外れたいと思って生きてきて、クリエイティブな道を選んでいたつもりだったのですが、意外と普通なことにすごく執着しているし憧れているんだなと気づいたんです。
そこにコンプレックスがあって、自分を卑下することが多かったのですが、それは自分が勝手に囚われているだけだし、『何もない』と言ってきた先輩と同じ視点で自分を見ているってことじゃない?って思ったんですよね」
そう気づいたからこそ、今は「自分を枠にはめずにいろいろな世界に触れたいと思って生きています」とモモコグミカンパニーさんは続けます。
「BiSHが東京ドームまで行けたのもBiSHとお客さんがすごかったからで、私はいてもいなくても変わらないと考えていたのですが、今はここまで歩んできた自分の人生をちょっとは認めてあげてもいいんじゃないか、信じていいんじゃないかって思い始めました。自分を入れる大きな枠を取っ払っても、たくさんのものが手を繋いでくれる。繋いでいるから端から落ちることもないはずです」
もともと引っ込み思案で恥ずかしがり屋。学生時代は授業中に手を挙げることもできなかったというモモコグミカンパニーさん。それでも一歩踏み出せたのは、10年という節目の年に、「正解の道ではなく、生き生きするほう、おもしろいほうに進んでみたい」と思ったからだといいます。
「『御伽の国のみくる』という最初の小説を書いた時は、人から依頼されたのではなく、自分で出版社に原稿を送って出版に至ったんです。今、初めて自費出版の詩集も作っているのですが、やっぱり自分から動いたほうが楽しいんですよね。ちょっと変なところで大胆な部分があるというか、『こういう行動をしたらみんなどう思うんだろう?』ってみんなの反応が見たいとも思って。
自分のためだけではなくて、ちょっと脇道に逸れたものを提供できるモモコグミカンパニーでありたい。自分らしく生きるってよく言われる言葉ですけど、私の周りの人もそうやって生きてほしいから、まずは自分が行動しなきゃダメだなって」
卑屈だった自分から一歩踏み出して、今、「生きやすさとしては100点に近い」とモモコグミカンパニーさんは微笑みます。「少し“イタい”ことをしたいんです」とこれからの生き方についてこう語ります。
「最近、傍から見たらイタい人って、実はすごく自由に生きている人が多いなって感じていて。私もそんな生き方ができたらいいなって思っています。今は芸能人もやりたいし裏方もやりたい。どこにでも楽しさがあるし、たくさんの経験が絶対に表現に繋がっていくと思っています。どんどんインプットして、いろんな世界に触れていたいし、何より自分の血が巡るほうへ、凝り固まらないほうへ向かっていって自分のバランス感覚を研ぎ澄ませていきたい。自分のことをいい意味で裏切るような人生にしたいです」
自分に対して凝り固まってしまっていた時期があるからこそ、今、解き放たれているモモコグミカンパニーさん。周囲からも「生き生きしてるね」と声をかけられるといいます。
「前はいついなくなってもいいやって破滅的な考えを持っていましたが、今は内側からエネルギーがみなぎってくる感じがして。この道が一般的な正解かはわからないけど、自分にとっては正解だったって胸を張って言えます」
新たな世界に踏み出したから見えてきた光。今モモコグミカンパニーさんが制作している詩集には、かつて発露した生きづらさが刻まれているといいます。
「本当に生きづらいなと思って、とにかく落ち込んで、迷っていて、暗闇みたいな時期があったのですが、暗いなりに今の自分を残しておこうと思ったんです。それは自分の幸せが何か一つ一つ考えることでもあって。辛い作業ではあったのですが、そんな思いで詩集を書いています。生きづらさを抱えていた自分がいるからこそ、今、光が見えてきたように感じます」
「少し勇気がいるけれど、できないことはないな、くらいに一歩踏み出すことが世界を広げてくれると思う」。モモコグミカンパニーさんは、今生きづらさを抱える人に、こう言葉をかけます。
「環境やまわりの人の要因で生きづらいって思っている人がいるかもしれないし、過去の私もそうでした。でもそれってまわりのせいじゃないって今でははっきりわかる。どんなに生きづらい環境でも、手を伸ばして自己表現をすれば、手を繋いでくれる人がいたはずなんですよね。だから、手を伸ばすことを諦めないでほしいなって思うし、自分の心の内の小さい声こそ大きい声にしたほうがいいと思う。
私は独立したけど、独立しなくても自分の生きやすさは自分で決められたなって思うんです。自分の世界を広げることって痛いし苦しいことでもあるけれど、一歩はみ出ることが、世界をちょっとずつ広げていくと思っています」
東京都出身。2023年6月に東京ドームでのライブを最後に解散したBiSHのメンバーとして活動。現在は音楽プロジェクト「(momo)」、Podcast「モモコグミカンパニーの盗み聴きラジオ」など幅広く活動。作家としてエッセイ『目を合わせるということ』(シンコーミュージック)、小説『御伽の国のみくる』(河出書房新社)等を上梓。2025年9月4日に初の自費出版による詩集『氷の溶ける音』を発売。
1996年生まれ、岐阜県出身。写真家の大辻隆広氏を師事した後独立し、東京でファッション撮影を中心に活動し、展示などの作家活動も行っている。
モモコグミカンパニー初の自費出版作品
『氷の溶ける音』
発売日:2025/9/4
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