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陰も陽も。すべての自分と向き合うこと。カン・ハンナの美しさの定義

美しさ。それは一人ひとりが持つ輝き。決まりきった概念や言葉では言い表すことのできないもの。さまざまな美しさを知るために、自由で、しなやかな精神のもと、新たな価値観を生み出す“美しい人”を訪ねます。第1回目は、タレント、歌人、国際社会文学者と多彩な顔を持ち、2020年11月にはヴィーガンコスメブランド「mirari」を立ち上げた、カン・ハンナさん。長い孤独の中、自分と向き合い続けたからこそたどり着いた「美しさ」の定義とは? 

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慣れ親しんだすべてから離れて、自分がどんな人間か知りたかった

20代は、韓国芸能界で多忙な日々を送っていたハンナさん。一時はTV出演のレギュラーを週に8本も抱えていたといいます。そんな日々のなか、心の拠り所となっていたのは、一人本を読み、文章を書く時間だったといいます。

「一番自分が自分らしくいられる時間でした。いつか文章を書く人になりたい、というふんわりした夢もありましたが、当時はどうすればいいのかもわからなかったし、厳しい韓国芸能界の中では、目の前のことを必死に頑張るしかなくて。その頑張りの中には、子どもの頃から蓄積されてきた、いろんな目線や評価への意識もあったと思います。自分が頑張れば、自分の愛する人が喜んでくれる。そんな想いだけで突き進んでいました」

当時、周囲の期待に応えることが全てだったハンナさんは、そのうち「恐怖」を感じるようになったといいます。

「周囲の評価が軸になっていたせいか、自分がこの先に何を望んでいるのか、わからないと気づいたんです。それなのに、30年も50年も全力で頑張り続けることなんてできない。いつか自分の愛する人たちを裏切ることになってしまう。それが怖くて、このままではダメだと思いました」

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自分を見失い、先が見えない。ハンナさんは、“孤独になる”必要があると考えました。

「自分を愛してくれる人や、期待してくれる人、深い縁や慣れ親しんだ環境から離れ、1人の人間、カン・ハンナになる必要があると考えました。人は自由になってはじめて、自分がどんな人間かがわかると思うんです」

その思いを満たしてくれたのが日本だったといいます。

「ただ東京の街を歩くだけで、自由な気持ちになれました。ここには自分を知る人は誰もいない。孤独が自由をくれたんです。『もう一度、真っ白な紙になって、新しい絵を描くなら、この場所かもしれない』と、強く感じました」

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短歌は、生きるための言葉じゃなく、自分を美しくしてくれる言葉

孤独になって一から自分を試そうと決めたハンナさんは、2011年に日本へと移住することに。しかし、待っていたのは想像を超える孤独とつらさでした。

「私が試みたのは、あまりにも大きな冒険だったと、移住してから気づきました(笑)。当時はまだ言葉も喋れなかったので、友達一人作るのも簡単ではなくて。自信も全て失ってしまいました」

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日本に暮らして2年、孤独と戦い続けていたハンナさんを大きく変える出来事が起こります。

「その日は大雪が降って、私はホームで停まってしまった電車が動くのを、ただ一人、寒さに震えながら待っていました。こんな日も私の帰りを待っていてくれる人はいないのだと、孤独に打ちひしがれ、いよいよ『もうダメかもしれない』と思ったとき、事務所のマネージャーから『短歌って、知っていますか?』というメールが来たんです」

それは、まさに希望の光だったとハンナさんはいいます。1年ほど前に日本語の勉強をするなかで出会った、1200年以上の歴史を持つという日本のポエム集「万葉集」。以来、短歌はハンナさんにとって密かな憧れだったのです。

「自分が必死に勉強してきたのは、『これください』とか『いくらですか』といった、いわば生きるための言葉でしたが、万葉集に納められていたのは、孤独でつらい現実を忘れさせてくれるような美学の詰まった、自分を美しくしてくれる言葉だったのです」

「もちろん知っています。短歌、好きです」ハンナさんはそう返しました。

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「美しさ」の定義を作れば、それが私の「美しさ」になる

現在、歌人として活動を続けるハンナさんにとって、短歌とはどのようなものなのでしょうか?

「日本人はおそらく短歌に対して『難しそう』という固定観念があると思うのですが、私はまっさらな気持ちで、その31文字の世界と向き合うことができました。限られた字数の中で表現をするには、自分を深く深く知る必要があります。それはときにつらく苦しい作業ですが、短歌は私にとって、マインドフルネスやデトックスに近いものだと感じます。自分とひたすら向き合ったその先にはみたこともない美しい景色があるということを、短歌は教えてくれました」

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そうした気づきを多くの人に広めるべく、ハンナさんは「Beauty Thinker〈美しさを考える人」」という名の会社を立ち上げます。

「私は、『美しい』を、この世で一番大切にしてほしい言葉だと思っているんです。社会にも、この言葉の持つ価値をもっともっと知ってほしい。そこには、私たちが生きていく中で、『美しさ』が基準になると救いになる、という想いがあります。

母国の韓国では、フィジカルな美しさを非常に重視する面があり、私自身、長い間、それに苦しんできました。でも、日本に来て、短歌を学び、自分と向き合い、『美しい』とは、外見のことだけではないとわかりました。

例えば、私が日々孤独と戦いながら過ごしている間、SNSで韓国の友人の楽しそうな様子を目にすることがありました。そんなとき、6畳一間で一人、辞書を引きながら黙々と短歌を作っている自分と比較して、気持ちが負けてしまいそうになることもありました。でもそんなとき、『今日の自分は美しい』と思い直すんです。私が思う『美しさ』は、豪華なホテルでディナーを楽しむことじゃない。孤独と戦い頑張ることだと。そうやって定義を作れば、それが私の『美しさ』になると思ったんです」

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鏡に映るのは光ばかりではない。たどり着いたのは“陰”の自分

「『美しさ』は、誰かに評価されるものではなく、自分と向き合い、深く知ることの中にある」と、ハンナさん。それを伝えるために最初に手掛けたのが、スキンケアブランド「mirari」です。肌や気分の状態に合わせて選べる6種のフェイシャルトリートメントマスクをはじめ、化粧水や保湿アロマミストなど、植物由来原料にこだわった、100%ヴィーガンのスキンケアコスメを開発しました。

「『mirari』が大事にしているのは商品だけでなく、お客様一人ひとりと深く向き合い対話することです。それは、『鏡』という意味である『mirari』というブランドの覚悟でもあり、このブランドをやるからには、私自身が一人ひとりの鏡にならなければ、という想いがありました」

ハンナさんは、顧客との対話で気付かされたことがありました。

「最初は『好きです』『嬉しいです』とポジティブな感情を伝えてくれていた彼女たちが、話すうちにだんだんと心の奥底にある悩みや暗い影へと辿り着くんです。なかには泣き出してしまう方もいて…。そこで『mirari』というブランドの意義を考えたんです。鏡は全てを映し出すもの。光ばかり見せて大丈夫なの? と」

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「鏡」であるブランドとして、明るく華やかな光の面ばかりでなく、一人ひとりの影の部分こそ見せるべきなのではないだろうか。そんな想いから生まれたのが、韓国に根付く『陰(ウム)・陽(ヤン)』の考えをコンセプトにした「mirari organic」でした。

「一人の人間は、決して明るく華やかな『陽』の面だけでなく、孤独で地味で、目を背けたくなるような『陰』の面もあるはず。『陰』はネガティブなものと捉えられがちですが、決してそうではないのだと伝えたかったんです」

「陰」の大切さ。それは、短歌が教えてくれたことでもあるとハンナさんは語ります。

「ある人は私の作る短歌を『人間臭い』と評価しました。そのとき、孤独で地味で苦しくて、そんな心の奥に隠していたものこそが、人間の本当の美しさなのかもしれないと、大きな気づきをもらったんです」

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自分が自分を愛せると、自立できる。自由になる

忙しい日々の中で、「自分と向き合う」のは、簡単なことではないと感じる人は多いのはないでしょうか。聞けば、そこにハンナさんがスキンケアコスメを作る意味があるといいます。

「私は短歌を通じて、自分と向き合い、深く知るということを学ぶことができましたが、それを万人に広めるのはなかなか難しい。じゃあそれに代わるものは何かと考えたときに、スキンケアが最適だと思ったのです。

私たちは朝晩必ず顔を洗い、肌をケアしますよね。それを義務的にするのではなく、30秒でも10秒でもいいから、自分の肌に触れて、自分に問いかける時間にしてほしいのです。鏡に映る自分に向かって、『今しんどくない?』『今日の方向性は自分らしい?』そんなシンプルな質問をしてみる。そうやって継続して自分の声を聞き、自分と向き合うことが大切だと感じます」

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「スキンケアを通じて自分と向き合うことは、自分を愛することにもつながる」とハンナさんは語ります。

「人は、『誰かに愛されたい』という気持ちにずっと苦しんでいると思うんです。でも、一番の近道は、自分が自分を愛すること。そうすれば、誰かの評価を気にする必要がないので、自立できるし、自由になれます。

私は、『自分を愛する』とは、『自分を放置しない』ことだと思っています。例えば、寂しいときに『寂しいの?』『大丈夫?』と声をかけてあげること。植物に水をやり、陽を当てて、日々見守ってやるように、自分にも接してあげてほしいんです」

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「美しく生きる」とは、いつまでも全ての自分と向き合う姿勢を持つこと

「あなたの夢は何ですか?」と聞かれたとき、その答えは? ハンナさんはこう答えます。「人生が終わるときに、『あの人、本当に美しく生きていたよね』と言ってもらいたい」

では、「美しく生きる」とは、どういうことなのでしょうか。

「変化を恐れないこと、だと思っています。人は、どうしても変化を恐がってしまうもの。だからつい見て見ぬふりをしてしまうし、放置してしまう。それはつまり、自分と向き合っていないということだと思うんです」

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「自分と向き合い、深く理解できているなら、何も怖がらずにいられるはず」とハンナさんは力強く語ります。

「私はすごく儚いけど、一方ですごく強いです。孤独で地味な『陰』の自分と、子どものように真っ直ぐに突き進む『陽』の自分、そのどちらも知っているから、私はどんな環境でも大丈夫という自信があります。『美しく生きる』とは、いつまでも全ての自分と向き合う姿勢を持つことです。だから私はこれからも、変化し続ける自分を大事に大事に、ずっと付き合っていきたいと思っています」

mirari(ミラリ)
https://mirari.jp/