「映画はもちろんだけど、映画館という場所が好きなのかも。他人と共存しながら一人の時間を過ごす、不思議な空間ですよね」と、話す穂志さん。
「もともとカルチャーが豊かな家庭で育ったわけではないので、映画を観る習慣もなくて、『ミニシアターって何?』みたいな感じでした。俳優になってから勉強のために足を運ぶようになったら、シネコンで上映されないような良作が観れたりして、すごく面白くて。現実がわーっとなっているときの居場所であり逃げ場でもあるなと思いました」
子どもの頃10年間バレエを習っていて、その道に進むことしか考えていなかったものの、あるときバレエを続けられなくなってしまい、燃え尽きてしまった日々の中で、ふと、俳優になろうと思ったのだそう。
「うーん、目立ちたいと思ったのかな…(笑)。私、すごく引っ込み思案な子だったんです。でもバレエをやっているときは、人前に立っているのに、とても楽な状態でいられて。振り付けや物語に入り込んで、そこからようやく自分なりの表現が出てくるというのは、実は芝居と似ているんです。バレエを楽しいと感じた経験があったから、表現を続けたいと思ったような気がします」
『ミスiD2016』でグランプリを受賞したことをきっかけに、俳優としてのキャリアをスタートし、「ここまで来たらやるしかない、みたいな気持ちも正直あるんですけど」と前置きしつつ、芝居の掛け合いの中で、予定調和ではない出来事が起こることに、今は俳優業の面白さを感じているとのこと。そんななか、自分に合ったスタイルで活動するため、今年2月に事務所を独立し、フリーランスになりました。
「あまり計画的ではなかったから、いろんな人にびっくりされました。自分が何かを考える前にどんどん引っ張っていってくれるような環境や人に出会えている人を見ては羨ましく思っていた気持ちもあり、事務所をやめてから探してみたのですが、なかなかご縁がなく、しばらくは気持ちがざわざわすることも多かったです」
そんな複雑な思いが、冒頭の「こんな既存のやり方からはみ出た生き方やりたくてやってんじゃないんだよ」という投稿に繋がったのだそう。けれども独立してから、自身の個性を理解してくれる人や、手を差し伸べてくれる人との出会いがあったことによって、気持ちが切り替わっていったといいます。
「いい意味で『もういいや、私はこういうやり方しかできないわ』という気持ちになりました。『あなたのままでいいんだよ、誰かと比べることはないんだよ』って、言葉でも行動でも伝えてくれる人たちがいたから、適切な自信が生まれたんだと思います。敷かれたレールに乗れることに憧れはあったけど、今は別物だと考えています」
もともとは行動を起こす前に思い悩みがちなタイプであるものの、独立してからは、突然アメリカに行ってみたりと、これまで考えても見なかった自分の思い切りの良い部分を発見したと話します。
「独立してみて、自分が持っていた素質や、意外な力強さに気づいたところがありました。もちろん、逆に苦手なことがわかってきた側面もあります。今の自分にどんな仕事が来るのかなど、色々なことを自分の目で確認して判断できるのは、すごく健康的だなと感じています」
『SHOGUN 将軍』の撮影のため8ヶ月間滞在していた、カナダ・バンクーバーでの生活からは、俳優として、一個人として、さまざまな刺激を受けたのだそう。
「日本にいると、足並みを揃えたり、波風を立てないことが好ましいとされる感覚がどこかある気がしていて、それを窮屈に感じることもあったんです。でも、バンクーバーに集まっている人たちは、いい意味で周りを気にしない空気感があったり、我慢して人に合わせず、自分がいかにハッピーでいられるかも大事にしていたように感じて。日々、彼らの生き方を吸収していたように思いますし、思いやりや愛のある人たちと出会うことができ、言葉や文化を超えたあたたかさに包まれて過ごしていました」
共演者であるコズモ・ジャーヴィスが、周りに合わせることなく、自分のペースを保って芝居と向き合う姿勢からも、俳優として学ぶところがあったといいます。
「私の知る限りですが、コズモは他の人たちとあまり交わっていなかったんです。いつも自分の芝居や、やるべきことに集中していて、みんなが集まる会があってもほとんど行っていなかったみたいで。でも決して感じが悪いわけじゃなくて、私もコズモのことが大好きです。飲み会でコネクションをつくった方がいいというような話を聞くこともありますが、私、業界の友達ってほとんどいなくて。彼がそのスタイルで役を勝ち取って評価されている姿を見て、かっこいいなと思いましたし、今も励まされています」
カナダに滞在していた際に、日常的な相談相手として、カジュアルにカウンセリングを受ける文化が根付いていることを知り、日本に帰ってから、自身でも試してみたことによって、自分の性質について得た気づきも大きかったと、穂志さんは話します。
「『自分と向き合う』というと、人と接しないで一人で行うことのようなイメージがありますけど、カウンセラーさんや友人とのコミュニケーションのなかで、自分を素直に開示することによって、気づきを得られたり、解放される部分もあると思うんです。自立って、一人で何でもすることじゃなくて、頼れる相手を複数持つことだと聞いたことがあって。私も抱え込みがちな方なんですけど、ちょっとずつ、適切に他人を頼ることができていけたらいいなと思います」
以前は、自分には俳優としてわかりやすい個性がないと感じていた時期もあったなかで、自分を深く見つめ直す時間をつくったことによって、「目先のことで焦らなくなった」といいます。
「今の自分を形成してきた物事を見直す作業をしたことで、自分は紛れもなく誰とも違う人生を歩んできたんだと感じられたんです。自分の弱さや、汚さ、失敗も認めないといけないから、すごく苦しい作業ですけど、多岐に渡って自分の過去や経験を振り返るのは大事なことだと思います」
じっくりと慎重に言葉を探しながら、率直に話してくれる穂志さん。SNSやnote、連載などを通じても自身の思いや考えについて言葉を綴ってきたなかで、以前noteに「俳優は多くは語らず、感じたことは溜めて、芝居で表現していくもの、という『俳優らしさ』についても疑問を感じていた」と記していたことがありました。
「『思っていても言わない文化』みたいなものに対して、もっと言っていかない? と思うときはあります。私自身、たまたま読んだ西加奈子さんの『i』という小説の中の一節がずっと心のどこかに残っていて。そんな素敵な言葉は書けないけど、もしかしたら私の文章も、いつか誰かが、何かに興味を持つきっかけの一つになり得るかもしれない。出るかわからない種を蒔いているような感覚があります」
正直な思いを発信してきたことによって、共感してくれる人も増えてきたといいます。
「『私もこんなことがあって落ち込んでたからその言葉に救われました、ありがとう』とか、他にも、誰にも言えなかったんだろうなという経験や想いを伝えてきてくれる子たちがいて、届く人には届いてるぞ、と思えたんです。自分の経験や想いをシェアすることによって、目の前が真っ暗で、壁に囲まれているような気持ちになっている人たちが、少しでも楽になったらいいなという思いもあります」
結果が出るかわからない物事に挑むのはしんどくもあること。それでも、発信することやアクションを起こすことについて、トライしたからこそ得られる経験があると、自身の実感を込めて話してくれました。
「行動するってすごく大変だけど、やっぱり大事なことだと思うんです。『自分には何もない』と思っていたとしても、アクションを起こしたことによる他者とのコミュニケーションの中で、わかることがあるような気がします。別にそれが何かの結果に繋がらなくても、それもまた一つの気づきですし。自分には個性がないと思っている人も、はみ出ちゃってメインストリームになりたいと感じている人も、みんながそれぞれ、自分のままでいて大丈夫だという自信を持てるといいですよね」
1995年生まれ、千葉県出身。講談社「ミスiD2016」でグランプリを獲得後、2017年に俳優デビュー。映画『少女邂逅』で初主演。世界的に大ヒットを記録したハリウッド製作時代劇『SHOGUN 将軍』では、その好演が国内外から大きな注目を集めている。
1996年生まれ、岐阜県出身。写真家の大辻隆広氏を師事した後独立し、東京でファッション撮影を中心に活動し、展示などの作家活動も行っている。
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