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自分と役を近づけすぎていたけど、
演じていない自分を大事にしようと思った

自分と役を近づけすぎていたけど、演じていない自分を大事にしようと思った

保育園の頃から俳優になりたいと思っていた髙石さん。事務所のキッズコンテストをきっかけに芸能界に入り、2019年から本格的に俳優としての活動を始めました。そんな髙石さんが今、大切にしているのは、「芝居」と「“自分”でいること」だといいます。

「私を構成する要素として芝居がかなり大きいのですが、プライベートでは自然でいること、いかにフラットにいられるかを大切にしています。もともとプライベートでは感情が薄いタイプ。役のおかげでたくさん喜怒哀楽を感じさせてもらっているように思います」

役に入り込んで芝居をしているときは、自分自身を超えて役の人格が前に出てくるんだとか。

「セリフも忘れるくらいの勢いで芝居をして、あとで作品を確認すると、私自身が演じているはずなのに、私自身の泣き方や怒り方、喜び方じゃないなって感じることがあって。そういうふうに自分じゃなくて、勝手に役自身が動いてくれる感覚があります」

以前はもっとどんな芝居をしたいかを考え、自分自身をコントロールしようとしていたという髙石さん。そんな自我をなくすことで、「役として生きることができるようになった」のだといいます。

「たとえば感情を爆発させる芝居をするとき、以前は、どう爆発させよう?って考えていたんです。泣きの演技でも涙を流すことに意識がいきがちで、技術としてどうやって涙を流せるのかを先輩方に聞いてまわっていた時期もありました。

でも、多くの方に『感情が追いつかなくて涙が出ないなら泣くな』と言われて。そこで芝居の核になっているのは役の感情で、そこに嘘をついたらいけないんだと気づきました」

しかし、役の感情を大切にするがゆえに、髙石さん自身が飲み込まれそうになることもありました。

「悔しい思いをした役を演じたときに、家に帰ってもその悔しさが残っていて、なんか涙が出ちゃうことがあったんです。役にのめり込みすぎて、自分のこともまわりも見えなくなっていたんですよね。

そしたらマネージャーさんから『カットがかかった瞬間に自分に戻ることを意識して。そうすると役を持ち帰らずに心が保てて楽になるかも』とアドバイスをもらったんです」

とくに持ち帰りやすい怒りや悲しみの感情を表現したあとは、逆に楽しいことを考えたり、自分をフラットに戻したりする練習を始めた髙石さん。その練習を経て、自分と役を俯瞰できるようになってきたといいます。

「自分と役を近づけすぎていたところがあったんですけど、ちゃんと役でない自分を大事にしようと思うようになりました。役に入るときは入るけど、自分との距離感を離すことでスイッチのオンオフがはっきりできるようになった気がします」

「自分って何?」って考えることが苦しい時期もあった

「自分って何?」って考えることが苦しい時期もあった

その切り替えのためにも、芝居のためにも、とても大切にしているののが「“自分”でいること」。さまざまな役を終えたあとは、いつでも素の自分に戻るように心がけています。

「プライベートでは動きやすい格好でいるのが好きです。あとは自然も好き。人に見られることを無視してジャージで何にもせずぶらぶら外を歩くとか、そういうのが私のフラットな姿です。

たとえば、現場に行くときに着飾っていると、“本来の自分”、“飾っている自分”、“役”と3つの人格があるように感じてしまうんです。とくに作品前は、役にすっと入り込むためにも、無駄なものは削ぎ落としてフラットな自分だけを残したいと思っています」

とはいえ俳優は人に見られる仕事。髙石さんも、以前は自身を飾りたくなったり、人にこう見られたいという意識が働いたりすることがあったといいます。

「もともとは人目に敏感だし、着ている洋服や聴いている音楽にまで影響されやすい性格です。影響されやすい人間だからこそ、いかに0でいるかを意識しなきゃと思っていて。でも、10代の頃はそれこそ人目を気にしすぎてずっと笑顔を作っていたこともありました。そんな自分に対して『自分って何?』って考えることが苦しい時期もあったんですよね」

「今は少しずつ自分のことを知っていくのが楽しい」と続ける髙石さん。そう思えたのは、ふとあることに気づいたからだといいます。

「私、まわりの人から『どういう人間かわからない』と言われることが多かったんです。それは私が本当に何も考えていないからなんですよ(笑)。でも、みなさんは『何を考えているんだろう?』と思うわけですよね。

私も『この人何を考えているんだろう、どう見られているんだろう』と相手のことを気にしているし、相手も『髙石あかりって何を考えているんだろう?』と私のことを気にしている。お互いにそう思い合っているんだったら、なんかもう対等というか、気にする必要ってないんじゃないかと思うようになったんです」

何も手を施していないピュアな私も美しい

何も手を施していないピュアな私も美しい

人の目や外部のものの影響からもうまく距離が取れるようになってきたという髙石さん。自分自身に対しても「芝居をするうえでも、ありのままの自分でいるためにも、今の自分自身との距離感がちょうどいいんです」と微笑みます。そんな髙石さんが今、自分をいちばん美しいと思うのは、カメラの前に立ったときだといいます。

「こういう人が好きとか、こういう人が理想だなっていう像が多いので、自分じゃないものに惹かれるんです。だから、カメラの前の自分は、自分ではなく役に入っているからこそ美しいと思います」

自分ではないキャラクターをたくさん演じるからこそ、「何も考えていない無意識でピュアな私も美しいのかもしれないですね」と髙石さんは自身に対する思いを巡らせます。

「何も手を施していないピュアな自分だからこそ、美しさだけではなく、自己嫌悪してしまうような要素も詰まっていると思うんです。だから嫌だなと思ったり傷つけてしまったりすることもあるけど、何をするにもピュアな自分がいちばんの核なので、大切にしたいなと思います」

髙石さんにとって「“自分”でいること」とは、自己嫌悪してしまうような部分も含め、ピュアな自分を受け入れることなのかもしれません。髙石さんはこう続けます。

「前は私のなかにいる強い自分が、弱い自分に対して『強くなれ!』って鼓舞していたんです。でも、そもそも真逆の人間性が自分のなかにあるっておもしろいかもって最近は思えるようになってきて。いろんな経験をすることで、こんな自分がいるんだって新しい発見ができると思うんですよね。だから、これから知らない自分に出会えると思うと楽しみです」

自分らしく生きたいと願うと、「自分、自分」となってしまいがち。そんなときは、髙石さんのように軽やかに目線を引いてみることで見えてくるものがあるかもしれません。

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衣装協力

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