5年ほど前まで無理矢理にでも人と会って話すことでインスピレーションを得ようとしていたというアオイさん。かつての自分を振り返りながらこう語ります。
「20歳くらいの頃は、いただいた仕事を受けるばかりでした。人にいっぱい会って、相手が何を求めているのか、自分がそれにどう応えられるのかばかりを気にしていて。気がついたら自分のワガママみたいな部分が自分でもわからなくなってしまっていたんです。『相手の期待に応えられなかったらどうしよう』という心配がすべてになってしまっていました」
たくさんの人から刺激をもらいながらも不安を抱えていた時期を経て、「今は自分の内側をより深く掘っていく時間を大切にしています」とアオイさんは続けます。
「自分で曲を作ったり、アオイツキで“踊り語り”をしたり、ちゃんと自分の手で何かを創作していると言えるようになり、アーティストとしてやっとスタートできた気がします。作ったものを自分で信じられなかったら一体誰に届くんだろうと考えるようになりましたし、今はもうちょっとワガママになっていいんだなって思いますね。むしろ、まずは自分が自分の欲求やワガママを信じてあげられないと、何も信じられないと思っています」
自分自身や今すでに手にしているものを丁寧に見つめ直し、深めていっているアオイさん。少しずつ積み上げてきた経験によって、埋もれてしまっていたワガママを掘り起こし、自分を徐々に認められるようになっていったといいます。
「今回撮影をした王城ビルで、3年前にヌードを撮ってもらったんです。当時は自分の身体に自信をもてなくて、どうやったら受け入れられるのか考えて、大好きな友人のカメラマンに撮影してもらいました。そうやって受け入れる、この身体で生きていく訓練をちょっとずつしてきましたね。陶芸ってちょっと指が傾くだけで形がどんどん変わっていくじゃないですか。あんな感じで本当に少しずつ少しずつ、地道にお皿を作っていくような感じで変化していっています」
急な変化は難しいけれど、小さな手捌きで、繊細に、丁寧に、整えていく──自分の内側を見つめながらそんな作業をしていくのはもちろんのこと、パフォーマンスをすることによっても自信がついていったというアオイさん。だから「踊ることを辞められないし、辞めたくないんです」と微笑みます。
「前はお客さんのことをすごく気にしていたのですが、今は置いていくこともありますし、私の世界に引き込めたら最高だなって思っています。私自身が自分の中に入り込むことで、見ている人も一緒に引き込んで旅に行ける──そんな空間を作りたいと思っているんです」
アオイさん自身、何かパフォーマンスを観て置き去りにされたり、引き込まれてトリップできるような感覚になったりすることに、おもしろさを感じているのだそう。日常のなかでも、特に自然に触れることでぐっと引き込まれる感覚を覚えるといいます。
「人にたくさん会っていた時は吸収したいっていう気持ちがすごく強かったのかもしれません。でも今は、人だけじゃなくて自然とか何からでも吸収できます。木や草花は他者の目を何も気にせず、ただただ風に吹かれて揺れているなとか、そういう些細なことにも気づくようになりました。日常から何かを感じ取ろうとすごく意識しているんです」
そうやって感じたものがパフォーマンスに反映され、アオイさんのエネルギーが人々に伝播し、また観客からの反応が返ってくる──そんな循環のなかで踊るアオイさんは、「人生とパフォーマンスの関係性がとても密接になってきた」と続けます。
「役を持ち帰ってしまって辛いという役者さんの話を聞いて、私も人生とパフォーマンスはわけたほうがいいと思っていたんです。でも、パフォーマンスって日常の些細なことが全て表れるし、表したい。だからこそ日常や自分自身にすごく敏感になったのだと思います」
作品を創作する時も、記憶を辿りながらインスピレーションを得ているというアオイさん。昨日のことでも、子どもの頃のことでも、すべてがパフォーマンスに昇華されるといいます。
「夏休みに食べたそうめんと、蚊取り線香の匂いと、甲子園のテレビの音……自分の心に残っている小さい風景の一つ一つが全部パフォーマンスになっていくんです。自分が持っているもので美しいと思うものはあまりないのですが、強いて言うならば記憶はすごく美しい。美しいしありがたいし、もう見ることができず、自分の頭の中にしかない特別感のあるものです。私のパフォーマンスを『美しかった』と感じてくれる人がいるならば、きっと私の記憶がそうさせてくれているんだと思います」
そんなアオイさんが今いちばん美しいと思うものは「太陽」。朝、ランニングをする時に、太陽の美しさと力強さに心を奪われるといいます。
「太陽より先に起きるのがすごく好きなんです。夜明け前から走っていると、だんだん陽が昇ってきて、太陽が同じ目線になって、あたたかい日光が射してきて。気持ちがしんどい時は抵抗せずにじっと我慢するのですが、そういう時にも太陽を見ています。本当に毎日美しいと思うんですよね。それと同時に言葉がどれだけあとに生まれたものなんだろうって感じます。最大限に言語化したいけど『美しい』しか出てこない。言葉の未完成感、足りなさをすごく感じます」
太陽のようなパフォーマンスを目指すなかで、最近はずっと気になっていたというライラポールというエアリアルパフォーマンスを始めました。「踏み出してみるとすごく楽しくて」と、アオイさんは一歩踏み出すことの豊かさを教えてくれます。
「学生の時とかはできないことが当たり前だけど、大人になると“できない=良くない”とされることが増えてきますよね。だからいざ新しいことを始めて、できなかった時を想像すると怖い。でも、人生一度きりだし、新しいことができなくても『自分にはこれができる』っていうものがあれば怖くないと思うんです。新しいことができなかったら元いた場所に戻ればいいじゃんって思えた。だから、今、私はできない自分も認められるなって思います」
怖さや弱さを乗り越えて、今、外の世界に自由に羽ばたいているアオイさん。「言語を超えたパフォーマンスをしたい」とこれからの旅路を語ります。
「まさに太陽のように、言語を超えたパフォーマンスをしていきたいです。他人や自分との向き合い方が変化してきたなかで、信頼できる人が増えたし、自分というものが少しずつわかってきました。だからこそ、一歩踏み出すことができるようになってきたと思います。初めて会った100人に嫌われても、ずっと知ってくれている1人に嫌われない確信を持てていることが、今、私の強さになっているんだと思います」
身体と記憶、食と人、音楽と心の繋がりを信じて現在は独自の感覚と日常を融合させ、楽曲制作、エッセイ、パフォーマンス作品に取り組む。 東京2020オリンピック閉会式、大阪・関西万博閉会式パフォーマンス。 Netflix『First Love初恋』 映画『PERFECT DAYS』や『炎上』(2026年4月公開)に役者として出演。 宇多田ヒカルMV『何色でもない花』などの振付。 踊り語りユニット『アオイツキ』でも活動中。 写真集『EBIZAZEN』が発売された。
1991年神奈川県生まれ。2012年より写真家として活動開始。コマーシャルワークと並行して、展示の開催や作品集の発表など、東京を拠点に国内外で精力的に活動している。2025年2月、エースホテル京都のレジデンスを経て写真展『Spring Fever』を発表。
Red: dress / MIKI TAKANE ( @mikitakane.dress )
Whiwe: t-shirt,shirt / YOHEI OHNO ( @yohei_ohno )
王城ビル